あなたは金属の製法やメッキや合金など、
高校化学の知識に不安はありませんか?
「鉄に亜鉛メッキでトタン」
「鉄にスズメッキでブリキ」
などなど、覚えにくいものも多く大変ですよね。
ここでは金属の性質や製法をまとめ、
さらにメッキや合金の必要な知識を全てまとめました。
この記事を最後まで読むことで、
試験までに覚えるべき知識の全体像がわかり、
暗記の苦痛が大きく和らぎます。
記事の最後には、発展的な内容として、
金属関係の研究も紹介しています。
ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
金属の性質と分類
「金属」は古代文明から重宝され、
現代でもさまざまなところに利用されている重要な物質です。
メソポタミアの古代民族ヒッタイトが、
鉄の利用で高い軍事力を持ったように、
古代文明にとって金属の利用は必要不可欠だったのです。
なぜそんなに金属が有用だったかというと、
• 硬い・融点が高い → 武器・道具
• 熱・電気伝導性 → 調理器具
• 展性・延性 → 加工のしやすさ
• 金属光沢 → 鏡(銅鏡など)、装飾品
などの金属特有の性質があったからでしょう。
科学技術が発展した現在では、
さらに金属の重要性が増していることは、
説明する必要もありませんね。
少し化学的な目線でも考えてみます。
金属とは電気陰性度が小さい元素で、
それによって「金属結合」を作ります。
金属結合であるからこそ、
先ほどのたくさんの性質が出てくるのです。
金属は古代から利用されていることもあり、
慣用的なな分類がなされています。
①軽金属・重金属
金属はその密度によって、
「軽金属」と「重金属」に分けられます。
ただ化学的に厳密な定義はなく、
大雑把に軽ければ軽金属、
鉄(密度7.65g/cm3)程度かそれ以上なら重金属、
くらいの分け方です。
例えば、
1族、2族のほとんど、Al(2.7g/cm3)、Sc(3.0g/cm3)
はよく軽金属と呼ばれますが、
Ti(4.5g/cm3)は軽金属としたりしなかったり、
V(6.0g/cm3)は重金属としたりしなかったり、
という感じです。
②貴金属・卑金属
さらに他の分け方に、
「貴金属」と「非金属」という分類もあります。
これも分野によって定義が変わりますが、
金Au、銀Ag、白金Pt、イリジウムIrなど、
簡単には酸化しない金属を指しています。
逆に貴金属でない金属が非金属です。
その昔行われていた「錬金術」は、
卑金属から貴金属(主に金)を作ることが目的でした。
貴金属と卑金属という言葉は、
その時代の名残りなんですね。
金Au、銀Ag、白金Pt、イリジウムIr、
パラジウムPd、ロジウムRh、ルテニウムRu、
オスミウムOs
の8つの元素を指します。
③有色金属
金属は一般に「銀白色」ですが、
金Auと銅Cuはそれぞれ「金色」「赤色」です。
またこれらの合金も有色であることが多いです。
ちなみに、
ビスマスBiはそれ自体は銀白色ですが、
表面の酸化被膜が「薄膜の干渉」を起こし、
虹のような色になります。
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ますます金属の面白さを感じますね。
単体金属の製法
自然界では多くの金属が単体では存在せず、
酸化物になったり、不純物が混ざったりしています。
つまり純度の高い金属を得るには、
天然の鉱石から金属を製錬したり、
不純物の多い金属を精錬したりする必要があります。
ここでは高校化学でもおなじみの、
鉄Fe・銅Cu・アルミニウムAlの製法を見てみましょう。
①鉄の製錬
鉄は自然界ではFe2O3という酸化物として存在し、
これを還元することで単体の鉄を手に入れます。
現在行われている方法は、
Fe2O3とコークスを溶鉱炉に入れ、
炭素Cや一酸化炭素COで還元する方法です。
より詳しい鉄の製法に関しては、
以下の記事を読んでみてください。
②銅の電解精錬
銅は自然界では「黄銅鉱CuFeS2」として存在し、
鉄と同様に還元することで単体を取り出します。
しかしこれでは不純物が多いため、
「電解精錬」を行うことで純度の高い銅を得ます。
③アルミニウムの製錬
アルミニウムは自然界では「アルミナAl2O3」として存在します。
そしてアルミニウムはイオン化傾向が高いため、
なかなか還元することができません。
そこで「融解塩電解」を利用する、
「ホール・エルー法」で単体を得ます。
融解塩電解の方法に関しては以下をご覧ください。
金属の加工
金属が水や酸素などと化学反応を起こすと、
「さび」を生じて品質が劣化してしまいます。
また、単体の金属ではそもそも、
望む性質が得られない場合もあります。
そこで、
•メッキ … 金属の表面を別の金属で覆う
•合金 … 複数の金属を混合する
などで加工を行うことで、
より良い性質の金属を作り出すのです。
①メッキ
ここではメッキした材料として、
•トタン … 亜鉛Znメッキした鉄Fe
•ブリキ … スズSnメッキした鉄Fe
•アルマイト … 酸化被膜をつけたアルミAl
を紹介します。
「トタン」は、
Feの表面にイオン化傾向の高いZnをメッキしたもので、
「トタン屋根」などに使われています。
Feが酸化されそうになったとしても、
まずはZnが身代わりになってくれるので、
その分、芯の部分のFeは劣化をまぬがれます。
屋外のような、
どうせ錆びるから寿命を伸ばそう
という環境に使われます。
次に「ブリキ」は、
Feの表面にイオン化傾向の低いSnをメッキしたものです。
「ブリキのおもちゃ」なんていいますよね。
こちらは酸化しにくいSnでメッキし、
Feの酸化を防ぐのが目的です。
ただしメッキに傷がついてしまうと、
そこから中身のFeが侵食されてしまって、
中身ばかりぼろぼろになってしまいます。
最後に「アルマイト」は、
アルミAlを頑丈な酸化被膜Al2O3で覆ったもので、
やかんや鍋に使われます。
アルマイトは1929年に理化学研究所が開発した、
現在でも使われる優秀な材料です。
②合金
何種類の金属を混ぜるか、
どのくらいの比率で混ぜるか、
などによって合金はさまざまな種類があります。
そのほんの一例がこちらです。
とーっても種類が多いですが、
意外と身近なものが多くないですか?
例えば、
黄銅(Cu、Zn)は5円玉、白銅(Cu、Ni)は100円玉、
と硬貨に使われていたり。
ステンレス(Fe、Cr、Ni)は水回りに、
チタン合金(Ti、Al、Fe、Cr)は、
航空機、ゴルフクラブや釣り具、人工関節など
本当に多様な用途で使われます。
ジュラルミン(Al、Cu、Mg)に関しては、
「お金を入れるケース」のイメージが強いですね。
大学入試的には覚えたいですが、
無理に覚えようとするのも大変でしょう。
ここでは、
「意外と身近なもの多いなー」
なんて思えるといいですね。
後々記憶に定着しやすいと思います。
参考:合金でどんなことができる?
ここからは高校範囲を超えるので、
気楽に読んでみてください。
合金の種類は事実上無限大で、
多くの可能性を秘めています。
ある合金にたった1%、
新しい金属を混ぜ合わせるだけで、
とんでもない性質が出ることもあります。
ここでは、その面白い合金の世界を、
少しだけのぞいてみましょう。
①超電導合金
(超電導特有の現象「マイスナー効果」
Meissner effect p1390048.jpg by Mai-Linh Doan)
「超電導」とは、ある金属を超低温に冷やすと、
その電気抵抗が0になるという現象です。
電気抵抗が0ということは、
電気が流れ続けるということ。
ループ上の金属に電流を流し続けて、
電気を貯蔵することさえ理論上可能だということです。
しかし超電導の大きな問題は、
液体窒素を使うほどの低温にする必要があること。
これを解決するために、
液体窒素以上の温度でも超電導を起こすような、
「高温超伝導合金」の研究が進められています。
「高温」とは「液体窒素の沸点より高温」ということなので、77K(-196℃)以上を指します。高温超伝導(低温)。
4K以下のHgで発見された超電導は、
ニオブNb系の合金を用いることで20K近くまで上昇。
その後様々な合金が研究され、
超電導ブームがやってきます。
そして来たる1986年、
スイスの物理学者ミュラーが高温超伝導物質を発見し、
高温超伝導ブームが巻き起こるのです。
現在では、
イットリウムYやビスマスBiを利用するものなど、
様々な高温超伝導物質の研究が進められています。
②透明電極
新しい性質を発見するのではなく、
既存の性質をより安価に実現しよう、
というようなモチベーションもあります。
「透明電極」には、
希少金属であるインジウムInの化合物が使われています。
透明電極は、
液晶ディスプレイ、タッチパネル、太陽電池
などに必要不可欠な材料です。
In系の化合物の、
透明でありながら電気を流す
という性質は透明電極にぴったりですが、
希少なInは節約する必要があります。
しかし、
金属が金属光沢&電気伝導性
であることからも分かるように、
透明&電気伝導性はある意味矛盾した性質なのです。
そんな中近年研究されているのが、
TiO2系の物質。
ただのTiO2は透明ではあるけど電気は流しません。
そこでTiO2のTiの一部を、
ニオブNbに置き換えることで電気伝導性を得たのです。
(参考:透明酸化チタン電極を用いた有機薄膜太陽電池)
金属や金属酸化物に「ちょい足し」して、
とっても面白い材料が得られる例ですね。
まとめ
ということで今回は金属の性質まとめでした。
「必死に覚えなきゃ…」
と思うと大変に感じてしまいますが、
「面白い性質がいっぱい!」
と思っておくと気持ちも楽になりますよ。
もちろん、
イットリウム系高温超伝導体、
TixNb1-xO2の透明電極
なんて覚える必要ありませんが、
なんとなくワクワクしますよね。
そうするといつの間にか覚えてしまっているものです。
大学入試レベルの知識も同じように、
「意外と面白いなー」
なんて思えると暗記も楽になるのではないでしょうか。
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