中和反応の仕組み

中和反応の仕組み

中和反応は比較的慣れ親しんだ反応で、
なんとなく理解した気になっている受験生が多いです。

しかし、
「中和反応ってなんで起こるの?」
「HClaqをNH3で中和してもなんで酸性のままなの?」
なんて聞かれてみると意外と「なんで?」と思いませんか?

このように、
実は中和反応をしっかり理解できている受験生は少ないのです。

この記事では中和反応の解説をします。

この記事を読む事で、
迷うことなく中和反応式を作れるようになり、
中和滴定の問題もスラスラ解けるようになります。

記事の後半にはセンター試験でも頻出の、
塩の液性の解説もあるのでぜひ最後まで読んでくださいね。

中和反応の仕組み

中和反応をイオン反応式で書けば、

H++OH→H2O

となります。

中和反応の本質はこのイオン反応式です。

それでは中和反応はなぜ起こるのでしょうか?

例えば1mol/Lの塩酸HClと水酸化ナトリウムNaOHを、
それぞれ1Lずつ混ぜた場合を考えてみましょう。

溶液を混ぜることで溶液の量が2倍になっているので、
混ぜた後のHClとNaOHの濃度は0.5mol/Lです。

これが電離することで、
水素イオン濃度[H+]=0.5mol/L、
水酸化物イオン濃度[OH]=0.5mol/L、
となります。

さてここで水の電離について思い出してみます。

H2O⇄H++OH

水は電離平衡状態にあるんでしたね。

しかもこのとき、
Kw=[H+][OH]=10-14(25℃)
が成り立つのでした。

10-14は相当小さいですね。

つまり今回のように0.5mol/LものH+やOHが現れれば、
ルシャトリエの原理からどんどん水にならざるをえません。

こうして結局

H++OH→H2O

となる中和反応が起こるのです。

イオン積の小さいものが分子になってしまうというのはまさに「沈殿生成反応」ですね。中和反応も原理は全く同じです。
沈殿生成反応については以下もチェック!
沈殿生成反応の仕組み!

中和反応の作り方

それでは中和反応を実際に作ってみましょう。

今回は以下の問題を例に、
中和反応の反応式を立てていきます。

次の化学反応式を書け。
(1)HClaqとCa(OH)2aq(多量)
(2)CO2(気体)とNaOHaq(多量)
(3)CaO(固体)とHClaq(多量)

(1)HClaqとCa(OH)2aq(多量)

先ほど説明した通り中和反応のイオン反応式は、

H++OH→H2O

でした。

ただ今回はCa(OH)2が一度に2つOHを出すので、

2H++2OH→2H2O

あとは両辺をClとCa2+で調節して、

2HCl+Ca(OH)2→2H2O+CaCl2

(2)CO2(気体)とNaOHaq(多量)

CO2をNaOH水溶液に入れると、
まずはCO2が水に溶ける反応がおきます。

CO2+H2O⇄H2CO3

そして次に発生したH2CO3と中和反応を起こします。

H2CO3+2NaOH→Na2CO3+2H2O

(この中和反応式は(1)と同様。)

前者の反応は平衡反応ですが、
後者の反応が起こることで平衡が右に偏り、
結局全て反応し切ります。

よって2式を足し算すれば、

(3)CaO(固体)とHClaq(多量)

CaOをHCl水溶液に入れると、
まずはCaOが水に溶ける反応がおきます。

CaO+H2O→Ca(OH)2

そして次に発生したCa(OH)2と中和反応を起こします。

Ca(OH)2+2HCl→CaCl2+2H2O

これら2式を足し算すれば、

水溶液中の反応ではなくても、形式的に水を足すことで同様に反応式が作れます。
(例)Al2O3とHClaq
Al2O3は水に溶けないが形式的に水を足して、
Al2O3+3H2O→2Al(OH)3
以上から、
Al2O3+6HCl→2AlCl3+3H2O

酸・塩基の強さと塩の性質

ここまで中和反応の仕組みをみてきました。

しかし本当に中和反応を理解するためには、
酸と塩基の強弱を考えていく必要があります。

酸・塩基の強弱について理解することで、
塩の性質がよく理解できると思います。

酸・塩基の強弱

酸・塩基のうち、
ほぼ完全に電離してしまうのが強酸・強塩基
一部だけが電離するのが弱酸・弱塩基です。

酸・塩基の強弱は、
中和反応自体には特に影響がありません。

なぜなら次の仕組みで反応が進むからです。

強酸弱塩基で考えてみましょう。

十分な量の強酸に弱塩基を混ぜた瞬間、
強酸は完全に電離してH+を出していて、
弱塩基は一部だけ電離してOHを出しています。

まずはこれらが全て中和反応を起こします。

すると弱塩基は全く電離していないような状態になり、
また一部だけが電離してOHを出します。

これが繰り返されることで結局すべての弱塩基が中和されます。

実際のところ、
酸・塩基の強弱が重要になってくるのは、
中和後の塩の性質を考えるときです。

塩の性質

先ほどの例と同じく強酸弱塩基の塩を考えます。

例えばHClとNH3の塩であるNH4Clを考えますね。

同じ量のHClとNH3を混ぜ合わせたとき、
完璧に中和反応が起こって以下の状態になります。

しかしNH4+は本当は以下の関係にありました。

NH3+H2O⇄NH4++OH

電離しすぎも電離しなさすぎも嫌な状態です。

今、溶液中にはNH4+ばかりなので、
バランスを取るために以下のような反応が起きます。

NH4++H2O⇄NH3+H3O+

このような反応を「加水分解」といいます。

この反応によって、
強酸と弱塩基の中和反応でできた塩は、
溶液中で酸性になることがわかります。

同様に弱酸と強塩基の塩は塩基性です。

この原理によって、
「強い方の性質が塩の性質に残る」
という性質が生じるわけです。

Q. 弱酸と弱塩基の塩はどうなるの?
原理から考えれば、「弱酸と弱塩基の塩の液性は予測できない」とわかります。実際にはそれぞれの電離平衡の兼ね合いで液性が決まります。
ミョウバンKAl(SO4)2を水に溶かすと「酸性」になります。これはAl(OH)3が弱塩基であることから、
[Al(H2O)6]3++H2O⇄[Al(OH)(H2O)5]2++H3O+
という加水分解反応が起こるからです。

正塩・酸性塩・塩基性塩

完全に中和していても酸・塩基の強弱で、
性質が変わることがわかったと思います。

しかし以下のような塩では注意が必要です。

以上のうち、例えばNaHSO4は、
強酸と強塩基からできた塩でありながら、
以下の反応で酸性になります。

HSO4⇄H++SO42-

さらにNaH2PO4、NaHSO3は、
以下の反応と加水分解反応が同時に起こります。

H2PO4⇄H++HPO42-
HSO3⇄H++SO32-

NaH2PO4、NaHSO3は、
加水分解よりもこちらの電離反応の方が多く起きて、
結果的に溶液は酸性になります。

最後にNaHCO3は、
以下の電離と加水分解が同時に起きて、
結果的に溶液は塩基性になります。

HCO3⇄H++CO32-

「酸性塩は酸性、塩基性塩は塩基性」というわけではなく
個別に考えていかないといけないのですね。

入試レベルでは今回取り上げたNaHSO4、NaH2PO4、NaHSO3、NaHCO3の4つを覚えておけば問題ありません。つまり「酸性塩は原則酸性、NaHCO3だけ例外で塩基性」と覚えておけば良いでしょう。

塩と酸・塩基の反応

塩に酸や塩基を加えると、
場合によっては以下のような反応が起こります。

FeS+H2SO4→FeSO4+H2S(弱酸遊離)
2NH4Cl+Ca(OH)2→CaCl2+H2O+NH3(弱塩基遊離)

このように、
弱酸強塩基の塩に強酸を加えると弱酸が、
強酸弱塩基の塩に強塩基を加えると弱塩基が、
出てくる反応を「弱酸・弱塩基遊離反応」といいます。

この原理などは以下の記事で詳しく説明しているので、
ぜひ目を通してみてください。

弱酸・弱塩基遊離反応

強いやつがくると弱いやつが追い出される反応です。

まとめ

盛りだくさんになってしまいましたが、
・中和がなぜ起こるのか
・反応式をどう作るのか
・塩の液性はどうなるのか
がきちんと理解できましたか?

これで他の受験生よりも一歩先に進めたと思います。

また今回の発展版である「中和滴定」についても、
以下の記事で解説しているので合わせてごらんください。

中和滴定はもう完璧!実験手順を理解して計算しよう

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