揮発性の酸遊離反応

揮発性の酸遊離反応

今回は揮発性の酸遊離反応の解説をします。

揮発性の酸遊離反応はとても影が薄いですし、
入試問題として問われるのも珍しいです。

しかしどんな反応であろうとも、
仕組みから理解していないと足を掬われかねません。

試験本番になって、
「あれ、希硫酸だっけ、濃硫酸だっけ…」
「硫酸ナトリウム?硫酸水素ナトリウム?」
なんてことにはなりたくありませんよね。

この記事を読めば、
もう絶対に悩むことはなくなります。

では最後まで頑張っていきましょう。

揮発性の酸遊離反応とは

揮発性の酸遊離反応とは、
HClなどの揮発性の酸の塩に、
H2SO4などの不揮発性の酸を加えて、
揮発性の酸を取り出す反応です。

揮発性の酸遊離反応の仕組み

それでは揮発性の酸遊離反応の、
仕組みを見ていきましょう。

揮発性の酸遊離反応の本質的な部分は、
弱酸の遊離反応と同じです。

弱酸遊離反応をまだ理解できていない人は、
以下の記事を先に読んでおきましょう。

弱酸・弱塩基遊離反応

希硫酸では反応が進まない

揮発性の酸遊離反応の仕組みを考えるまえに、
「濃硫酸」ではなく、「希硫酸」を使った場合、
を考えてみましょう。

塩酸と硫酸はともに強酸ではありますが、
強酸どうしにも強弱があります。

水素を投げようとしする力は、
塩酸よりも硫酸の方が圧倒的に強いです。

よって弱酸遊離と同じように、
希硫酸が持つH+をClに押し付けようとします。

しかし今回の硫酸は希硫酸。
希硫酸は、水で「希」釈した濃「硫酸」なので、
溶液中にはたくさんの水分子があります。

塩酸だって水素を投げる力は強いですから、
硫酸から受け取った水素を水に押し付けてしまいます。

このように、
希硫酸と塩化ナトリウムを混ぜた場合、
「両方普通に溶ける」ということになります。

そもそも酸が電離してH+を放出するとき、実際には「オキソニウムイオン」となっているのでした。
例)HCl + H2O ⇄ H3O+ + Cl
このように酸とはH+を他人に押し付ける物質です。

濃硫酸に塩化ナトリウムを加える

では希硫酸に変えて、
「濃硫酸」を使うとどうなるでしょうか。

まずは先ほどと同様、
硫酸が塩化物イオンに水素を押し付けます。

このとき、
先ほどとは違って水がほとんどいないので、
塩化物イオンは水素を押し付ける相手がいません。

さらに溶液が加熱されているため、
塩化水素は耐えられずに揮発してしまいます。

揮発が進むことで平衡が傾き、
次々と塩化水素が作られていくのです。

以上のように、
弱酸の遊離反応と加熱の合わせ技が、
揮発性の酸遊離反応です。

塩酸は、硫酸の第2電離よりは強いです。
弱酸遊離の仕組みから考えれば、
2NaCl+H2SO4 → 2HCl+Na2SO4
という反応は起こらないということになります。

濃硫酸は弱酸じゃなかった…?

先ほど、
「塩酸よりも硫酸の方が圧倒的に強い」
と言いました。

それを聞いて、
「でも濃硫酸は弱酸じゃなかったっけ?」
と疑問に思った人もいるでしょう。

確かに濃硫酸はあまり電離しなく、
水素イオンをあまり放出していません。

しかしそれは、濃硫酸の濃度は98%で、
H+を押し付ける水がいないからであり、
水素を押し付ける力が弱いというわけでは決してありません。

めちゃくちゃ電離したいのにできないという、
非常に欲求不満な状態です。

ここに水素イオンを押し付ける相手がいれば、
もちろん押し付けますよね。

以上のように本質的な酸の強さは、
「どれだけ電離しているか」よりも、
「どれだけ電離したいか」を見ないといけないということです。

「どれだけ電離したいか」は「ハメットの酸度関数」で定量化されます。酸度関数の値が小さいほど強い酸であり、濃硫酸が-4程度、濃硝酸が-7程度、濃硫酸が-10程度です。

押さえておくべきこと

高校化学で覚えておくべき不揮発性の酸は、
濃硫酸のみです。

リン酸も不揮発性ですが、
酸の強さの観点から硫酸を用いるのが普通です。

さらに高校化学での揮発性の強酸としては、
塩酸と硝酸が考えられますが、
硝酸は遊離しても分解されやすいため、
問題として出題されるのは塩酸ばかりです。

結局のところ、

NaCl+H2SO4 → HCl+NaHSO4

を理解しておけば十分です。

まとめ

今回は学校ではなかなか説明してくれない、
揮発性の酸遊離反応について説明しました。

この記事をここまで読んだなら、

NaCl+H2SO4 → HCl+NaHSO4

を間違えることはないでしょう。

仕組みを理解しないと間違えやすいところではあるので、不安がある人はきっちりと復習しておきましょう。

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